『愚管抄』（ぐかんしょう）
◆説明
□「鎌倉前期の歴史書。全7巻。慈円の著。成立は承久の乱前とみる1919年（承久元）説と20年説が有力。「神皇正統記」「読史余論」とともにわが国の三大史論書に数えられ、近年英訳本（全訳）も刊行されている。全編3部からなり、巻1・2に簡単な「漢家年代」を付した「皇帝年代記」をおき、巻3〜6で自らの歴史観にもとづき、保元の乱（1156）以降に力点をおいた国初以来の通史（政治史）をのべる。巻7で日本史を7期に区分し、「道理」の推移と一体化した日本の政治史を変遷を説きながら、今後の日本がとるべき政治形態と当面の政策とを提示する。
慈円は、最澄以来の天台宗の思想的伝統ともいうべき「時処機相応の論理」（理想を現実すなわち時と処と人に相応させようとする思考方法）によって、（1）仏教的下降史観に支えられた当代末世の意識と、（2）「日本書紀」神代巻にみえる祖神の約諾神話に依拠する摂関家（九条家）中心主義を結合し、仏の垂迹たる祖神が日本史の没落段階に相応した「道理」を作り変えていくと考える独自の歴史観を構築した。またこうした歴史観をふまえ、摂関九条兼実（慈円の同母兄）の曾孫頼経が鎌倉将軍家の継嗣に決まったことを機に、摂関家（公家）と将軍家（武家）が提携する摂関＝将軍制を末代の「道理」として主張するとともに、後鳥羽上皇による摂関家排斥と倒幕計画を歴史の必然性と祖神の冥慮とに背くものとしてきびしく批判した」（日本思想史辞典[2009：259]）
▼文献
■丸山二郎校注、1949『愚管抄』岩波文庫.
▼引用
□「人ノ命ト果報トハカナラズシモツクリアハセフコト也。末代ザマニコソ」（94-95：第三）
△キーワード：因果
▼参考文献
●村岡典嗣、1927（5月）「愚管抄考」『思想』67（1927-5）.→村岡・前田編[2004：30-67]
●大隅和雄、1979「「愚管抄」における王法と仏法」『思想』657.→大隅[1986→1999：145-172]
●大隅和雄、1984「持続と変革――神話から歴史へ」『講座日本思想4 時間』東京大学出版会.→大隅[1986→1999：245-286]
●――――、2009「愚管抄」石毛・今泉・笠井・原島・三橋代表編者[2009：259]
■村岡典嗣・前田勉編、2004『新編 日本思想史研究――村岡典嗣論文選』東洋文庫（726）.
■大隅和雄、1986『平凡社選書 愚管抄を読む』平凡社.→1999『愚管抄を読む――中世日本の歴史観』講談社学術文庫（1381）.
■石毛忠・今泉淑夫・笠井昌昭・原島正・三橋健代表編者、2009『日本思想史辞典』山川出版社.
▼参考文献引用
●村岡典嗣、1927（5月）「愚管抄考」『思想』67（1927-5）.→村岡・前田編[2004：30-67]
□「「人は昔を忘るゝ者なれど、天は道を失はざるべし。さらばなど天は正理のままに行はれぬといふこと疑はしけれど、人の善悪は身づからの果報なり。世の安からざるは時の災難なり。天道も神明もいかにともせぬことなれど、邪なるものは久しからずして滅び、乱れたる世も正にかへるは古今の理なり。」として、正義の現世に於ける終局の勝利を説ける如き、いづれもその精神的基調に、神道的（若しくは神道的儒教的）最善観が認められる。之に対照する時、愚管抄の有する仏教的の宿命説や、最悪観の調子は、いかに鮮明に観ぜらるゝぞ」（村岡[1927→2004：66]）
△キーワード：神皇正統記 天道
□「而して、更にかくの如き史観の内容的根柢を為したものは、宿命的退化と、そのうちにおける善悪の因果応報との関係、而してその関係をさらに大なる道理の発現と見る仏教思想である。末法思想に伴ふ、退化主義の宿命説のみを以てしては、歴史は単なる歴史的退化の過程で、そこに何等の発展、もしくは展開がない、即ち、歴史は消滅して成立せぬ。こゝに歴史的展開あらしめるものは、やがて道徳的意味に於ける因果の応報である、意志の自由を前提とする善悪である」（村岡[1927→2004：61]）
△キーワード：因果応報
●大隅和雄、1979「「愚管抄」における王法と仏法」『思想』657.→大隅[1986→1999：145-172]
□「前節で見たように、慈円の時代になってから、貴族社会と仏法との関係は、皇子の誕生を祈ったり、怨霊の調伏を行なったりすことを通じて、仏法が王法を守り、仏法を守ることによって王法自体も安泰になるというだけではすまない、新しい段階に入ることになった。王法と仏法は分かち難く結びつき、重なり合う部分はますます拡大し、相互に不可欠のものというよりも、表裏一体の関係になっていった。そして、武家政権が成立する中で、貴族社会の衰えが覆い難いものとなった時、王法と仏法はますます一体化したのである」（171）
△キーワード：仏教
▼関連
◇道理
◆20100210, 0301, 0523, 20120505, 20130101
≫HOME ≫事項リスト