市場の失敗(market failure)
□「完全な情報を備えた完全な競争市場の特性は、財やサービスの価格が、個々の経済主体の活動から独立である一方で、経済全体では財やサービスの超過需要や超過供給の存在を示すシグナルとして機能する点にある。個々の経済主体が、所与の価格のもとで私的利益の最大化を図るとき、競争均衡配分が実現されることになる。競争均衡配分では、すべての財・サービスに関する需給の一致が達成されるとともに、パレート効率性が満足される。それに対して、現実の市場では、価格の機能が十全に働かず、均衡配分においてパレート効率性が満たされないことがある。例えば、「独占」が発生したとき、あるいは「公共財」や「外部性」が存在する場合には、特定の経済主体による価格への影響を排除すること、パレート効率性を達成することが困難となる。このような事態が市場の失敗(market failure)と呼ばれる」(後藤[2006:363])
◆現代の市場の失敗1:外部性
□「ある経済主体の行動が、他の経済主体に影響を及ぼすことを外部性という。それがプラスの場合は正の外部性、マイナスの場合は負の外部性と呼ぶ。前者の例としては農業を、後者は公害を挙げたい。農業は、食糧安全保障、洪水防止等の国土保全、癒しの田園空間の維持、文化の継承、地域共同体の復権等々、多面的な公益機能を持つ。排気ガスなどの公害は、取引当事者に帰属しない社会的費用を伴うものが過大に供給されることから、規制や課税が必要となる」(中矢[2015:130])
□「現代の市場の失敗は3つである。第1は外部性の存在である。公害発生企業のように、市場で費用を支払うことなく有害物質を排出し、市場の外側にマイナスの効果を与えるものや、逆にプラスの効果を与える外部性がある場合には、市場内だけでの資源配分の合理性は真の資源配分の合理性を確保していない」(岩波現代経済学事典[2004:343])
◆現代の市場の失敗2:公共財
□「第2は公共財の場合である。灯台の光のような公共財では、利用者だけにその費用を支払わせることができず、市場に代わって税その他でその費用をまかなわなければならない」(岩波現代経済学事典[2004:343])
□「公園や警察などの公共財は、供給者が便益を享受する消費者に対して競合性と排除性を持たないため、フリーライダーの問題が発生する。要するに、誰でも無料で使用できる公共財は、民間による費用回収が困難であり、たとえ社会的に必要であっても、供給が過小となる可能性が高い。景観の維持や自然環境の保全等も政府が責任を持って提供すべき公共財である」(中矢[2015:130])
◆現代の市場の失敗3:収穫逓増(費用逓減)と独占
□「第3は、収穫逓増(費用逓減)企業の場合である。水道企業のように固定費が大きく変動費が使用水量に比例するような場合[…]」(岩波現代経済学事典[2004:343])
□「通常、費用は逓増する。しかし、電力や鉄道などのように、インフラ整備に巨額の資本がいる費用が逓減し、そのままにしておいては寡占状態を引き起こす」(木村[1999:384])
□「自由競争の結果、勝ち負けがはっきりするので、所得格差の発生だけでなく、勝者による独占を生むことがある。独占は、価格や供給量の操作を通じて、社会的に適切な供給量の達成を不可能にする。また、電力や鉄道など固定費用がかかる産業(規模の経済)では自然独占が発生し、独占価格が形成される。政府の対策としては、所得の再分配政策や独占禁止法の制定などが挙げられる」(中矢[2015:130])
◆情報の非対称性
◆内包的深化
◆不安定性