エディプス・コンプレックス（Ödipuskomplex ; Oedipus complex）
◆フロイト
□「父に代わって母と性的関係を結ぼうとする無意識の欲望から生ずる観念の複合体。父への殺意と母への恋慕という感情的側面と、人間が過去の文化的遺産を引き継ぐための図式という構造的側面とがある。フロイトは『夢判断』において3種の類型夢からその感情的側面を再構成しうることを示し、『トーテムとタブー』以降においてはその構造的側面を追究した」（新宮［1998：158］）
□「フロイトは後期になるに従い、このコンプレックスにおける父への同一化は、死んだ父への同一化であるということをますます強調するようになった。そこには次のような構造論的な理由があると考えられる。主体が父の欲望を取り入れるということの根源的な意味は、主体が自らの生存の根拠を手に入れるということ、すなわち自らの生存の必然性で正当な理由を、父の立場において見出すということである。自己の生存の根拠の位置に立とうとする主体のこの欲望は、論理的には〈自己言及〉による〈不完全性〉の構造を伴っている。そこに由来する論理的無力感は、耐え難い死の表象を呼び起こす。我々はごく早期に、その表象に直面して、そこに父の殺害があったという物語を構築し、論理的無力感を倫理的罪悪感に置き換えて受け入れるんぼである。自己の生存の根拠を求めていた主体は、死んだ父に媒介された過去の文化的遺産を、その代わりに受け取ることになる。このコンプレックスの中で、人間理性の無力と過去への愛が結び付くことになるのである」（新宮［1998：158］）